新型コロナウイルスのパンデミックにより、日本社会全体のデジタル化が進み、いまやオンラインでのやり取りやリモートワークが当たり前の世の中になっています。
あらゆる業界に影響が出ている中、デジタル化の拡大と同時にペーパーレスの流れも進み、印刷業界もまた大きな打撃を受けました。
一方で、IT業界のように、リモートワークの需要によって絶好調の業界も存在しています。あらゆる業界、業種がデジタルシフトを余儀なくされており、これまでアナログだった業界もデジタル活用の有用性に気づき始めています。
もはやこの流れが変わることはありえないので、印刷業界も変化しなければならない瀬戸際に来ているといえるでしょう。
なんだかカッコつけた前フリをしましたが、僕はかつては印刷業界で働いていたということもあり、純粋に業界の今後がどうなるのか気になってこの記事を書くに至りました。
それでは、印刷業界が抱える課題やDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるにはどのようなことが必要かを考えていきたいと思います。
Contents
DXを実現できない先に待つ「2025年の崖」とは
経済産業省による「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」によると、DXとは
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
と定義しています。
つまり、ざっくりいうと
「デジタル技術を活用して、会社の仕組みそのものを作り直す」
ことです。
ここで勘違いしてはいけないのが、DXは単なるデジタル化ではないということです。
経済産業省による『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜』によると、社会全体のDXが進まなかった場合、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じてしまう可能性があるとして、国内の企業へ向けて強く警告しています。
では、DXの崖とはなにかというと、「レガシーシステムを放置することによるあらゆる障害」とそれによる経済損失をいいます。
DXの課題は「企業の課題」と「ビジネスモデルの課題」に分かれており、その内訳は以下のとおりです。
【企業の課題】
- レガシーシステムの改善
- マネジメントの見直し
【ビジネスモデルの課題】
- 経営戦略
- 人材確保
- システム運用
これらの課題を克服できないことによるビジネスの機会損失が、2025年の崖です。
企業努力の怠慢により潰れる会社があるだけならまだしも、いまやDXの実現は日本経済全体の問題と言えます。
また、DXの課題は印刷業界が抱える課題ともほぼ合致します。DXを実現しなければ印刷業界も
もはやDXは日本企業の責務であり、印刷会社も例外ではありません。では、DXの実現にはどのような施策が必要なのか、次項から説明しようと思います。
印刷会社のDXとは
印刷会社の業務内容・作業プロセスはDXと相性のいいものであると考えています。それはどういうことか、以下に説明していきます。
印刷物をデザインから印刷まで一貫して行う会社の場合、
- 企画
- デザイン・データ入稿
- 出力(色校)・校正
- 印刷・製本
- 梱包・発送・納品
といったプロセスに分けることができます。
これはDTPが導入されて以降変わらないプロセスであり、すでに作業手順がテンプレート化されています。
つまり、手順ができあがってしまっているので、そのままデジタルに置き換えてしまえばいいのです。
では、主にどの工程にどのようなツールを導入すればいいか、次項で解説します。
印刷営業のDXとは
印刷会社の営業はこれまでの足で稼ぐ営業ではなく、ツールとマーケティング手法を駆使したやり方に変えていかねばなりません。
では、どのようなツールを活用すればいいかというと、以下のような例があります。
- Zoom等のWebミーティングツール
- SFAなどの顧客管理システム
- MAやAIなどの分析ツール
印刷業界ではまだまだ対面での営業活動を重視する傾向があります。今後はZoom等のWebミーティングツールを活用して極力減らしていく必要があるでしょう。
また、SFAやMAなどのツールで顧客分析を行い、これまでは個人の感覚に任せていた営業活動をツールによって行動や関心を分析し、より無駄なく精度の高いアプローチをかけていく必要があります。
また、顧客行動や関心の分析は市場全体の分析にも繋がるため、会社の経営方針を考える上でも重要な指標となります。
印刷制作のDXとは
印刷制作現場におけるDXとは、作業効率化のツールを導入することと、作業プロセスの最適化が基本になります。
使用を推奨するツールは以下になります。
- Slack・Chatworkなどのコミュニケーションツール
- タスク管理ツール
- RPAツール
印刷現場のDXにおいては円滑なコミュニケーションとわかりやすいタスク管理が必要です。
例えばこれまで紙で原稿や指示書でやりとりをしていたものを、紙をすべて廃止してデジタルオンリーにするなど。メールや電話、FAXでのやりとりをすべて廃止し、チャットツールに切り替えるなど。
また、ツールを導入する際に忘れていけないのが、形骸化しているプロセスをすべて見直し、廃止することです。確認のはんこなどがそれに当たるでしょう。
また、定期的にある定形の業務などはRPAが最も力を発揮する場面です。
制作部署にツールを導入することも大事ですが、それらを利用し営業部署と連携が取れて初めて意味があるものになるということも忘れてはいけません。
DX実現のための5つの基本
DX実現のために必要なプロセスの基本となるのは以下の5つの項目です。
- マインドを変える
- システムを構築する
- データ活用を行う
- 人材を育てる
- 仕組みを定着させる
以下、それぞれ解説します。
1.マインドを変える
DXを実現するための最大の障壁が会社のマインド、つまりそれまでの古い考え方にあります。ここを変えていかなければDXの実現は不可能と言っても過言ではありません。
よくある事例としては、経営層が「弊社でもDXを行います」と宣言して担当者に丸投げし、担当者から上がってきた稟議に難色を示して結局対症療法的な施策しか許可が降りず、全体の改善に至らないというものです。
DXの実現のためにはまず会社の方針の決定権を持った経営層が「全社的にDXに取り組む」という決断をしたうえで方針を考えていく必要があります。経営戦略を立てた上で取り組む、と言い換えてもいいでしょう。
経営戦略を立てて実行するには、
- KPI(重要業績木評価指標)
- KGI(重要目標達成指標)
といった指標によって管理、推進することができますが、本記事では割愛します。
2.システムを構築する
システムを構築するということは、デジタルツールを導入してこれまでの業務プロセスをデジタル化して効率化することが挙げられます。
昨今では、内部的なプロセスの自動化のみならず、営業活動もデジタルツールで自動化することが主流で、DXにおいては各ツールの連携が肝心と言えます。
導入できるツールには以下のようなものがあります。
- SFA(Sales Force Automation)
- MA(Marketing Automation)
- RPA(Robotic Process Automation)
- コミュニケーションツール
それぞれのツールの説明は割愛しますが、これらのツールを導入し、各データを連携、活用することができてようやくDXのスタートラインに立ったということができます。
3.データ活用を行う
DXにおいて、ツールを導入してもデータ活用がされていなければ全く意味がありません。データ活用とは、単なるデータ集計ではなく、分析し、仮説を立て、施策を考え、実践する。これを繰り返すことが重要となります。
ツールを導入してから新しく集積を始めることも大事ですが、これまで集めたデータを整理することも重要となってきます。
かつてはPDCAサイクルという改善方法が主流でしたが、デジタルの変化の速さに適応できるOODAループ(監視[Observe]、情勢判断[Orient]、意思決定[Decide]、行動[Act])という考え方もあります。
前項で紹介したツールはデータを活用するための機能を備えています。DXの実現にはこれらのツールを最大限活用し、迅速な行動が重要となるといえるでしょう。
4.人材を育てる
DXはあくまでも手段であり、最も重要なのはシステムを使う人です。
DXについて調べると必ず出てくるSFAやMAなどの用語ですが、オートメーション(自動化)という言葉だけが独り歩きしてしまい、ツールを導入しさえすれば効率化ができ、課題が解決すると思われがちですが、そうではありません。
ツールを使う人に、「何をしたいか」「どう使うか」という視点がなければどんな高性能ツールでも無用の長物です。これは実務を行う従業員だけでなく、経営者や管理職にも言えることです。
全社員がDXを学び、活用していくことがDXの実現を可能にするのです。そのための学習機会を会社は提供する必要があるでしょう。
5.仕組みを定着させる
ここまではあくまでDXの基盤を定着する方法を説明してきました。あとは人員を適切に配置して組織を再構築し、ツールを活用し、運用していかなければなりません。そのためには、
- 組織の再編成
- 業務フローの整理
などを行うと良いでしょう。運用体制ができあがりそれを機能させ、さらには経営目標を達成できて初めてDXが実現したと言うことができます。
印刷物による新たな価値創出が生き残りの鍵
DXの実現は、ITツールを導入して新しいシステムを構築すれば終わりではなく、最終的には「これから会社をどうしていきたいか」「印刷を利用してどのようなビジネスを実現したいか」というビジョンが重要になります。
また、これまでの印刷のビジネスモデルのように「たくさん刷ってたくさん儲ける」というスタイルに固執することも避けねばなりません。
これからの印刷会社のスタイルとは、印刷物をツールとしてどのように活用すれば顧客のビジネス課題を解決すればいいか、を考えることが重要になってくるでしょう。
そのために、まずは自社のDXを実現し、パラダイムシフトを目指してみてはいかがでしょうか。
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